日産とプリンス合併の労組問題。。。Part6 日産の逆粉飾決算にたいする塩路の見解
1966(昭和42)年5月26日、大蔵省から、利益の多い大企業の利益処分に関連、いわゆる「逆粉飾」にたいして警告が発せられた。逆粉飾とは、出すべき利益を表面に出さず、諸引当金の形で内部留保することである。この内部留保にさいしては適正な税法上の措置を受けているから、いわゆる脱税といった税法上の問題はない。つまり、表面上の利益を少なくして、含み利益を増大するのだ。大蔵省としては、この種の傾向は、企業の体質を強化する意味では好ましいことで、けっして非難はしないが、企業の正しい姿を一般に理解させるためには、この表示上のアンバランスは、訂正してもらいたいという意味で、あえて通達におよんだというのである。いわゆる粉飾決算は、儲かっていないのに儲かっているように、無い利益を表面に出して、株主、投資家をごまかす悪質なものだ。その点、逆粉飾も、儲けをそのまま出さず、内部に蓄積して、同様に世間を惑わすというという点では同じだということになろう。何れにしても国際基準では到底受け入れられないごまかしである。
ところで、逆粉飾決算の対象は、主として労働組合対策だという説がある。会社側とすれば、税金はどのようにしても変わらない。しかし、表面に利益を出すと、株主からの配当アップの要求も起こるが、これは内部留保を増大、会社に弾力性を加えるという点で、納得してもらえる。問題は労働組合だ。そんなに会社が儲かっているのなら、自分たちの待遇を良くしろと勢いづく。賃上げ、ボーナス増額が怖いとのことだった。夢のような高度経済成長60年代ならではの話ではある。いまでは組合の方から、戦う前にベースアップを諦めるという情けない時代だからだ。
問題は、大蔵省から通達された逆粉飾会社のトップに日産自動車、ついでトヨタがあげられたことだ。金額は日産が194億円、トヨタが138億5千万円、3位は資生堂で29億7千2百万円だった。日産、トヨタが桁違いの逆粉飾であることは一目瞭然だった。
この件に関しての、日産労組の総帥、塩路一郎の見解は次のとおりである。
「日産の労組員は、子供ではない。財務のスペシャリストもいる。我々幹部も勉強している。労組は会社側と経営協議会を持ち、それを通じて、会社のことは何から何までわかる仕組みになっている。自動車工業が現在置かれている厳しい環境、さらに自由化にともなう試練を考えると、販売店、部品会社の育成のための引当金を多くすることは賛成である。ベースアップの財源は、別のところにある。現に日産労組は、昭和42年の春闘でも、4,700円を獲得、目標を達成している。日産労組は、いたずらに赤旗を振って、無茶なことをいうことから完全に脱却している。一部で御用組合という者がいるが、我々ぐらい経済闘争に強い組合はない。現に今度の闘争でも、旧プリンスの従業員の中には7〜8,000円もベースアップされた者もいる。決算の技術的な方法はともかく、日産の首脳部が、我々従業員組合を意識して決算を作ったなどという話は、馬鹿げている。日産の従業員と日産の経営首脳部には、さようなケチな者はいない」
と塩路は労組幹部らしい、闘士の心を秘めながら穏やかな表情で語るのだった。まさに理想的な労使協調路線の象徴ともいえるだろう。川又社長が万全の信頼をおいていたのが理解できる。
この項つづく。