1967 HONDA RA273 Part 2

 RA273の問題は、エンジン主要運動部の構成思想にあった。ホンダは RA271同様にオール・ローラー・ベアリング形式にこだわったのである。メイン・シャフト受およびコンロッド大端をニードル・ローラー支持とするために、複雑な組立クランク構成をとり、クランク・ケース剛性保持のために重くて頑丈なメイン・シャフト受ベアリング・ホルダーをガッチリとケース本体に締め付けなければならなかった。V12の長い組立クランクの捩じり振動を考慮して、クランク中央部に圧入されたギアから動力を取り出し、V中央に駆動軸を通して、乾式多板クラッチおよびホンダ製5段ギア・ボックス、ホンダ製ファイナル・ドライブを駆動した。ギア・ボックス、ファイナル・ドライブ共にオール・ローラー・ベアリング思想が貫かれ、ファイナル・ドライブのハイポイド・ピニオンおよびギアの推力まで垂直面ニードル・ローラーで支持されていたので、実戦でのハイポイド・ギア・ピッチングおよびスカッフィング(歯車歯面などのすべり接触面に生じる固相凝着による局部的表面損傷)を多発するというトラブルの原因となっていた。
 オール・ローラー・ベアリングの組立クランク、V中央駆動軸、ファイナル・ドライブ・ニードル・ローラー支持など、エンジンの重量増は決定的であった。当初ホンダF1はギアボックスを含むエンジン全重量は約230kgであり、HONDA RA273のエンジンは600kgという超重量級となってしまった。
 ニードル・ローラーへの偏執は、単純に、滑りよりも転がりの方が合理的であり、摩擦損失が少ないと過信されていたからである。



 1.5リッター横置きV12と同形式の、ホンダ式低圧吸入管噴射方式、ホンダ式トランジスター点火方式を採用していた。
 ホンダ式低圧噴射は、主燃料タンクから電動式給油ポンプを経て、ギア・ポンプ形式の噴射圧力ポンプに燃料が送られて噴射設定圧が保たれ、偏心ポンプ形式の調量ポンプで調量されて、当初常時噴射、後に定時噴射から噴射される方式である。調量偏心ポンプの偏心量がスロットル開度と機械的にリンク連動して調量する。
 一般的にグランプリ・エンジンに多用されている Lucas吸入管噴射方式に比べて燃料噴射圧が低く、このことが噴射系全体をエンジンによる温度上昇ならびに待機温度などの外部的な熱要因の影響を受けやすくしており、燃料系に発生する燃料ガスの気泡発生などが噴射量調量を不正なものにしがちであり、特に加速時などの過渡状態を不安定なものにしていた。
 中村良夫さんとしては、「大企業的なアマチュアリズムのひとつの特徴であろう」と批判している。



 1966年のイタリア・グランプリでのデビュー戦時点で約380〜400hp/10500rpmであり、3.0リッター・マシンの中で最強の馬力を誇った。Richie Gintherのホンダは先行する Ludovico Scarfiottiの FERRARIを追って2位に浮上した時点で、Goodyear Tireはトレッド剥離を起こし、Gintherは木に激突してしまった。幸いに Gintherは軽度の骨折だけで大事には至らなかったが、400馬力を確実に吸収するにはタイアが構造強度的に十分ではなかったことが事故の主因だと思われる。この年、ポイントを挙げたのは最終戦のメキシコ・グランプリで Gintherが4位になっただけであった。

 翌67年シーズン、エンジンは410〜420hp/11000rpmに向上したが、軽くて強力な Ford cosworth DFVエンジンの登場で、RA273の重さは、ますます致命的なものとなり、シーズン後半にかけて、アルミ合金ブロックやマグネシウム合金ブロックに変更し、さらにギアボックスやその他の軽量化をはかり、シャシーも軽量の RA300に変更し、全体で65kgの軽量化を実現して、ようやくイタリア・グランプリで John Surteesにより貴重な一勝をあげている。