【圖解科學】 大東亜戦争、終戦間際、トヨタ技師が解説したジープの記事

某イベントで、本日、見せていただいた朝日新聞社刊『図解科学』(圖解科學)、1945(昭和20)年6月発行、敗戦間際に発行された科学技術雑誌。
まぁ、その頃の日本はアメリカによる空爆で壊滅的な状況、連合艦隊が動かせるマトモな軍艦は皆無、残りは本土決戦、竹槍で1億国民総特攻、科学どころか、神風が吹いて鬼畜米英を壊滅させるという神話に最後の望みを託していたわけで、このような科学雑誌が発行されていたのは奇跡的なこと。

興味深いのは、米軍GIの頼れる戦場の友であるジープを、当時のトヨタ技術者が解説している事。これには理由がある。陸軍は1942年にジープをフィリピンで捕獲。これと似たものを作れとトヨタに命じ、トヨタは四式小型貨物車を開発したが戦争には間に合わなかった経緯がある。執筆者は、たぶん四式小型貨物車の開発責任者だったのであろう。


『図解科学』の記事では詳細な技術解説がされているのだが、最後の結論が強烈だったので紹介したい。なお、原文は旧かな遣い。

結論
 しかしながら、この車は特に科学的に優れた点があるというわけではない。便利に出来ていることと大量にあるというにすぎない。これが敵の物量の本当の姿なのである。しかし敵は如何に便利なものを大量に作ろうとも、我が特別攻撃隊(カミカゼ)のように、これを以って体当たりを敢行しようというものではない。斥候にも出て、精鋭なる我が皇軍にでも出会えば、一目散に逃げ帰るか、忽ち車を捨てて手を上げてしまうのが関の山なのである。
 終わりに臨んで、我が国の自動車生産の現状は頗る活発に働いていることを付記し、敵アメリカ撃滅に突き進んでいるということを御承知ありたいのである。

トヨタ技術者は、ジープを「便利に出来ていることと大量にあるというにすぎないと」小馬鹿にしているが、兵器にとって、使い方に特別な訓練がいらず、安価に大量に装備されるということは、重要な要素でもある。
また、「我が国の自動車生産の現状は頗る活発に働いている」などと嘯いているが、現状は、生産現場には熟練工などおらず、学生による未熟工。資源も枯渇し、まともなモノがつくれる状態ではなかった。それ以前に喰うものがなく国民は飢餓状態だったのである。

トヨタ技術者が知ってか、知らずか、この記事が掲載された2ヶ月後に、「精鋭なる我が皇軍」は、馬鹿にしていたアメリカ軍に無抵抗で降伏してしまうのであった。