Racing management Alan Mann (1936-2012) Part6


LeMans 1966. Ford GT40 MKII Alan Mann Racing. Drivers; Graham Hill and Brian Muir.

 試行錯誤しながらクルマを調整する。‘Make and try’を繰り返しながら沢山の要因を注意深く考慮するのだが、ドライバーがサーキットで数ラップ速く走ってピット・インした時に、メカニックに対しクルマがどのような調子であったのか正確に伝える能力があれば、大変な助けとなる。未だ多くのドライバーは「高速で曲がる時、やや引き連れる」とか「止まってくれない」などと言うような表現しか出来ず、酷いのは「何だかおかしいみたい」と言ってのける。彼らがこのような戯言を言っているときは、本気で役に立っていると考えているのだろう。実を言うと、我々がタイムを計測していれば、悪いときはピットに居てもだいたいわかる。コース上にオイルがあったり、スロットルが硬かったりすることによるのかもしれない状況は、ドライバーの不正確な表現では改善しようがない。
 しかし、有難いことに、わかり易く、いつも的を外さない(そうでないときもあるが)言い方でクルマの操縦性の欠陥を即座に指摘できるドライバーもいる。Graham Hillは、15分も乗れば、とても書き表せないような価値のある助言のリストを出すことができるプロ・ドライバーの好例だ。彼が初めて Cortina Lotusを運転した時、かなりの時間をかけて、このクルマが速く走らない理由を説明したが、我々が提示した Cortina Lotusによる彼のラップ・タイムは、どのラップもコース・レコードよりも 0.5と遅くない好タイムであったのを知ると、彼は驚いた様子だった。一瞬、皆黙り、Grahamは穴にでも入りたい気持ちで皆に昼飯を奢った。
 この他にテスト・ドライバーとして優れている者に、"Jack" Brabham、"Richie" Ginther、Bruce McLarenなどが私の認めるところだ。
 スプリント・ドライバーに必要なもうひとつの性格は、絶えず最高スピードで練習できる能力である。あるドライバーはタイム・アタックの場合、ライバルと併走する時よりも自己ベストより 0.5秒遅くなるという悪い癖をもっている。これは僅か 10ラップのスプリント・レースでは、まったく不利なスターティング・グリッドの2列目しかとれないので、かなりのハンディとなる。



LeMans 1966. Ford GT40 MKII Alan Mann Racing. This car was driven by; Sir John Whitmore and Frank Gardner.


 さて、長距離レースのドライバーに目を向けてみよう。これはヨーロッパでGT選手権とかツーリングカーで広く開催されているレースだ。このようなイベントでチームの重鎮となるには、自制心と頭を使うことが必要である。長距離レースの最中には、ドライバーはいかに速く走るかではなく、いかに遅く周回できるかを考えていかなければならない。あるドライバーにとってこれは不可能なことであり、レース中にスロー・ダウンすることがいつもフラストレーションの原因となる。その逸る気持ちはわかるが、これは許されることではない。
 チームマネージャーが求めている長距離レースのドライバーとは、機械的な感情、規律正しさ、必要なラップ・スピードを出せる能力、そして最も難しく重要なのは、遅いクルマを追い越すときに特に注意してトラブルを避けたり、絶対に競り合ったりしない人材だ。
 多芸で、偉大な才能を持つドライバーの見本は、1964年シーズンに私のために Cortina Lotusに乗った Sir John Whitmoreだ。
 John Whitmoreが英国のサーキットで Miniをぶっ飛ばすのしか観たことがない人には不思議で信じられないかもしれないが、彼は私の知る限りのドライバーの中で最も神経が細かく、よくコントロールできる安全なドライバーの1人だと言えば驚くだろうか。
 私はピットに座っているとき、Cortina Lotusを一番速く走らせることが出来る男は、数千マイルも離れた場所で Formula 1 Lotusを運転しているのだと自分に言い聞かせ慰めているのだ。
 ドライバーたちは、いずれも素晴らしい連中なのだが、私は時々彼ら無しに出来るものならやってみたいと思う。そうすればチーム・マネージャーの生活はもっと楽になるはずだ。



Sir John Whitmore in the 1964 European Touring Car Championship.