1965 Sebring 12 Hour Endurance Race Part 4


 Hall/Sharp組の Chaparralは午後4時となっても、レースをリードし続けた。Hill/ Rodriguez組の Ferrari 330Pが2位、Miles/McLaren組の Ford GTは3位についていた。上位3位までの順位は午後5時になっても変わることはなかったが、真っ黒な雲が北から近づいており、嵐が迫っていた。何人かのレーサーは、それに気づいてヘッドライトを点灯させた。

 一部の観客はラジオによる最新の天気予報を聴きたくてクルマに戻った。しかし残念なことにラジオから聞こえるのは雑音ばかり。共産国キューバアメリカ合衆国が互いに妨害電波を発しているからだった。南フロリダは、未だ冷戦下の強い影響下に覆われていたのだった。

 17:25、強い嵐がサーキットを直撃した。最大瞬間風速は 80km/hと凄まじいもので、風の威力はグッドイヤーの飛行船の大きな船体を直立させてしまった。観客エリアのテントや小さな建物は簡単に吹き飛ばされてしまった。

 そして土砂降りの雨が灰色の壁のようにサーキットに降り注ぎ、視界はほとんどゼロとなる有様。降り始めの最初の 30分で、サーキットの排水システムの許容量を軽く超えてしまった。


 このような劣悪な路面状況では、まるで水を耕すようなもの。ラップタイムは2〜3倍もかかるようになってしまった。水位は一部で13センチにも達していた。複数のマシンがコース上で停止したり、点火不良でピットインを余儀なくされた。水に濡れたディストリビューターや電気系統が乾くのを待つしかなかったのだ。

 Chaparralや Lola、Ford GTや Ferrariなどの車高の低いプロトタイプは、路面が水位を増したことにより同じ問題を抱えてしまった。エア・インテークから強制的に大量の水をコクピットを含む車体内部に取り入れてしまうのだ。その力は凄まじく、数台のマシンはダッシュボードから計器やスイッチを飛び出させててしまうほど。応急処置としてピットマンは吸入口にボロ布やタオルを押し込んで防ぐしかなかった。


古いアリタリア航空の看板に注意。


 新しく造られた保護壁によりピット・レーンは、まるで運河のように水が溢れていた。スペア・タイアは辺りを漂流し、工具は水に沈む有様。ドライバー、メカニック、オフィシャルは水の中を漕ぐような状況。Bizzarriniチームのオーナー Giotto Bizzarriniは、彼の高価な靴が濡れないようにピット内のロッカーに保管し、2台の Bizzarrini Iso Grifosを監督するためにズボンをロールアップして裸足でピットに戻った。ところがロッカーが流され、彼の高級な靴は見つかることはなかった。翌日の飛行機には靴下のみで乗り込んだと言われている。

 幅の広いレース用タイアはアクアプレーニング現象により、トラクションとハンドリングを失う危険な状況となる。一部のドライバーやメカニックは、オフィシャルが赤旗を振ってレースが中止されることを待ち望んでいた。しかし旗は振られることはなく、雨の勢いが続く中レースは続けられた。Mike Gamminoがドライブする Bizzarrini Iso Grifoがメルセデス‐ベンツ・ブリッジに激突、車体は真っ二つとなったが奇跡的に大した怪我もなく救出された。

 プロトタイプと大排気量スポーツカーのラップ・タイムは、ほとんど10分台となっていた。Miles/McLaren組の FORD GTは実際、雨の中 16分もかかっていた。視界は劣悪な状況で、Cobra Daytonaのドライバーは、飛行場の駐機場に迷い込んだりした。彼の後を追っていたマシンも続いて駐機場に迷い込む始末。コースラインを示すパイロンは雨ですべて洗い流されていたのだ。モンスーンの雨の中、レースは続行された。

 Phil Hillの #16 Cobra Daytona Coupeは1周するのに2度もドアを開けて、水を排出しなければならなかった。彼によると雨水は腰まで浸かり、コクピットの中で前後に波のようにしぶきを上げていたという。数台のクルマがピットインし、雨水の抜き穴を開ける羽目となった。

 2位を走っていた Hill/Rodriguez組の Ferrariは2度も排水作業を行なったが、2度目の排水作業時にミッションが2段しか残されていないことが発見された。これはGraham Hillではなく、Pedro Rodriguezの仕業だった。彼はレースの初期の段階で2速ギアを吹き飛ばしていたのだ。正午のドライバー交代時に Hillは2速が失われていることに気づき驚いた。メカニックの間では Rodriguezがクラッチを切ってシフトすることを好んでいない、という噂が広まっていた。

 すべてのレーサーが豪雨に行く手を阻まれていた。小排気量のセダンやスポーツカーはアクアプレーニング現象に悩まされることなく、細いタイアで水を切り裂いて走った。#61 Sebring Sprite Clive Baker/Rauno Aaltonen組は短時間ではあるが、Ford GTを3度も抜き去り、#62 Sebring Spriteの Paddy Hopkirk/Timo Makinen組は雨の中リードしていた Chaparralを4回も抜き去った。#62 Spriteは 15位、#62は18位と大健闘したが、これは雨によるものだった。