1963' ALPINE M63


水冷直列4気筒 OHV 996cc 100ps/7500rpm

 アルピーヌ初のレーシングスポーツ。
 アルピーヌが本格的にスポーツカー・レースに挑戦したのは1963年であり、これに当たって3人の貴重な人材の協力を得た。アメディ・ゴルディーニ、ロン・トーラナック、それにマルセル・ユベールである。1930年代から小排気量エンジンのチューンで名を成し、戦後は主にシムカをチューンしてきたゴルディーニが、ルノーと手を組んだのが1957年であり、この年ドーフィンをライト・チューンしたドーフィン・ゴルディーニを作り上げた。ルノーとの関係ができた以上、彼がアルピーヌのチューンを手がけるようになったのは必然であった。彼は1963年に登場させるアルピーヌのレースカーのため、このエンジンのチューンナップを担当、OHVのままダブルのロッカーシャフトによってV字バルブによる半球形燃焼室に改造、吸排気系を改良してオリジナルのルノー・エンジンの2倍以上のパワーを絞り出した。
 シャシー・デザインはアルピーヌ自身と公表されていたが、実際に担当したのはブラバムで名をあげたロン・トーラナックである。レデールによってイギリスから寄ばれた彼は秘かにアルピーヌで設計、生産型モデルの鋼管のバックボーンを主体にきわめて簡潔かつ合理的なセミスペース・タイプのフレームを設計した。ボディを担当したのはマルセル・ユベールである。彼は A110 ベルリネッタをベースに、ル・マンを主眼においたこのクルマの目的に合わせ、高速コース向けの空力を極力重視したFRPボディをデザインした。すべての統括はレデールが行ない、この4人のブレーンの結晶として生まれたのが M63 である。
 だが M63 は63年シーズンには期待した成績を上げられることはなかった。ル・マンに3台投入されたが、いずれもリタイアに終わっている。