HINO Contessa 900 S

1963年の第1回日本グランプリのGTクラスで活躍したものの市販バージョンである。
本来であるならばFIAの公認を取得するためにレース前に規定台数を製造すべきなのだが、実際はレース後に市販車は製造されるという本末転倒なものだ。たぶん、レースで惨敗であったなら闇に葬られていたはずである。
根本的にはデラックスなどと共通であるが、エンジン、ギアボックス、サスペンション、シートなどをスポーツ仕様にしてある。

それはさておき、お台場での展示車の状態は素晴らしいものであり、適度なヤレも好ましい上物であった。ホイールキャップも勿論オリジナルである。




リアマウントのエンジンは水冷直列4気筒OHVの893ccでデラックス仕様と基本は変わらないが、マニフォールドを拡大し2バレル・キャブレターを付けた結果出力は35PS/5000rpmから40PS/5000rpmに向上し、トルクも6.5mkg/3200rpmから6.7mkg/2800rpmに増大した。むしろ低速トルク型になっているのは加速性を重視した結果だろう。ギアボックスは1st:3.7(16.856)、2nd:2.27
(10.326)、3rd:1.50(6.833)、4th:1.04(4.724)の4速、2速以上がシンクロで、デラックスではわざわざ複雑なメカニズムでコラム・シフトにしていたものをSではスポーティーなフロア・シフトに改めている。最終減速比は4.556と変らない。サスペンションは全輪コイルによる独立で、スプリングはロード・ホールディングを高めるために強化してある。また独特のラック&ピニオンのステアリング・ギアの両端に付いたリターン・スプリングも強化され、初めてバランサーの付いたホイールとともに高速での安定性を高めた。今となっては信じられないことだが、高速道路が開通されていなかったために100㎞/hを出す道など無く、ホイールバランスをとる必要が無かったのだ。

インテリアはフロント・シートがベンチからセパレート(当時はセミバケットタイプと称していたようだ)になり、内張りもビニール・レザーに変えられた。2点式シートベルトと足元に大きく張り出したホイールハウスに注意。
ボディサイズは変らないが、車輌重量は770kgとデラックスより20kg、スタンダードより50kg重くなっている。最終減速比も共通だから最高速度はデラックスを10km/h上廻る120km/hにとどまっているが、4速ボックスにより加速力は向上しているはずだ。惜しむらくはより軽量のスタンダードにこの装備が備わっておれば真のGTに近づけたかもしれないことだ。タコメーターが備わっていないことも寂しい。
価格は64.8万円でデラックスとの価格差は3万円だが、当時の初任給3か月分であることを考えれば相当な差である。