CLUB ZAGATO GIPPONE 2010 その8  LANCIA Appia GTE

10°V型4気筒 OHV 1089.5cc 60ps/5400rpm 最高速度160㎞/h

1953年にデビューしたランチアの小型車 Appia のザガートによるスポーティー・クーペ。ランチア独特の複雑なバルブ機構を持つ狭角V4エンジンは、ランチアV型エンジンの中でも、最も狭角のVバンクをもつ。このエンジンは Appia のために新設計された非常にコンパクトなもの。歴代のランチアであるところの Aprilia, Ardea, Aurelia とまったく共通性のない複雑なバルブ機構を採用することで、技術者の探究心とプライドは高められたであろうが、生産性の向上に貢献することは有り得ず、結局は真綿で締めつけるように経営状況を悪化させたのであった。
GTE のエンジンヘッドは黒の結晶塗装で仕上げてあるらしいのだが、当日はエンジンを観ることができなかったのが残念だ。





展示車がダブルバブル・ルーフでないことに注意。

ザガートが初めて手掛けた Appia GT は、1956年のトリノ・ショーでお披露目されている。デザイナーは創設者ウーゴの次男ジャンニ(イタリアの自動車関係者にはこの名が多いね)がデザインしたもので、イコンであるダブルバブルがルーフだけではなく、ボンネットからトランクリッドまで施されていたので“ラクダ”とあだ名されたという。
さすがに翌年、ランチアの制式モデルとして採用された際にはルーフのみの“コブ”となり、代わりにリアには垂直のテールフィンが設けられたのは(アメリカ市場を意識したとはいえ)蛇足であった。


当初のモデルは2種あって、シールドビームのヘッドライトが“GT”、プレクシガラスの流線型カバーがつくのが“GTS”と称されていたようだ。双方で150台あまりが生産されたのちに、1958年のトリノ・ショーにて“GTE”に切りかえられている。Eは“esportazione”イタリア語で輸出の意味。1960年7月のイタリア国内の車輛関係法規変更によりプレクシガラスのカバーは廃止となりシールドビームに変更された。当初は54馬力だったが、途中から60馬力に変更されている。なお、ホイールベースはクーペでも変更は無くベルリーナと同様である。





室内は、運転席と助手席がめいっぱい左右に離れて設置されておりルーフの低さと相まって、サイドウィンドーから圧迫感を感じるほどタイトなものとなっている。ウッドではないエボナイト製のステアリングに注意。3連メーターの正面に居座るのは勿論タコメーターだ。惜しむらくは4速のミッションで、せっかくのスムーズなエンジンをスポイルしているという。






写真は1960年のタルガフローリオ。2台の LANCIA Appia GT がグラン・ツーリング仕様車の1150ccクラスでエントリーしたが健闘むなしくタイムアウトで失格となっている。因みにこのクラスで優勝したのは DS-Panhard HBR5(850cc)であった。