LANCIA LUNCH 2010 その5 LANCIA Fulvia Coupe/Sport

1960年に誕生した1500ccクラスの“Flavia”以降、ランチアは一部のスポーツを除きFFを主流としてきた。フィアットが初のFF車として送り出した“128”が1969年のことだったから、意外にもランチアの方がフィアットよりもイタリア車ではFFの先駆者だったのだ。
“Fulvia”は1100ccクラスの小型FF車であり、無骨な(それも味わいである)ベルリーナと比べて流麗なクーペやザガート製のスポルトは別のクルマに見える。中でも“Coupe HF”は久々にレースで活躍したランチアとなった。特にラリーでは有名なクルマだ。






“Fulvia”の特徴である左に45°傾いた狭角13°V4エンジン。クランクは3個のメイン・ベアリングの中で廻る。キャブレターはソレックス。エンジンが左に傾いているので、バランスをとってラジエターは右側にオフセットしている。ブロックはスティールだがヘッドはアルミ製。13°という狭角V型のためヘッドは左右1体で、ダブルのローラー・チェーンで駆動される2本のOHCは、それぞれ吸気バルブと排気バルブを専門に受持つ。吸排気バルブは60°の理想的な角度をもち、燃焼室は半球形だから、V型で2本のOHCながら機能的にはDOHCといえる。吸排気ポートは独立している。これをフロント・アクスルにオーバーハングされて搭載している。
まさに独走の塊のようなエンジンだが、これを最後に狭角のV型4気筒という特殊なエンジンは他メーカーでも採用されていない。









“Fulvia Sport”はクーペと違い自社デザインではなく、ザガートのエルコーレ・スパーダが担当している。もちろんコーチワークもザガートだ。
この日展示されていた個体はシリーズ2のようだ。シリーズ1ではアルミボディだったが、2ではスチールに変えられ車重が50㎏以上増加ている。しかし、ミッションは4速から5速のクロスミッションになっており扱いやすいようだ。


フルビアは大衆車クラスでありながら、狭角V型OHC4気筒エンジン、4輪ディスクブレーキ、上質な内外装の仕上げなど、コストよりも独創的な技術力を惜しみなく投入した力作であり、同クラスのフィアットに比べ5割増も高価な高級車であった。
しかし、このような技術者の独走が経営に与える悪しき影響は大いなるものがあった。ランチアは70年にフィアット傘下に正式に収まることになる。
シトロエン同様に採算を度外視した独創的なメカニズムを追及したメーカーは、過去も現在も存在できないのが自由主義の冷酷な結論だ。