エンスーの妻は二度、伴侶にエンスーを選ぶ

小林彰太郎さんのお別れの会に行ってきた。

 頂いた栞には、カーグラフィック社長の加藤さんによる「御礼」の言葉が書き記されていましたが注目すべき言葉が。
「あまりにも理想主義的であるが故、時に頑固すぎると感じる場面があったことも否定しません」

 過去二玄社から発行されていた雑誌NAVIの名物連載に、ナベゾーこと渡辺和博さんの「エンスーへの道」という如何にもNAVIらしい記事があった。その記事の一つに「楽しい人生を送るための暮らしの知恵袋」という記事があった。カーグラフィックやNAVIの編集者のその奥さんや娘さんたちとの座談会である。それには小林さんの伴侶の満里子さんも出席されていたが、小林さんの頑固さが見事に語られていた。
 小林さんは大変な安全運転で、夜は、信号のないところでは、絶対に右折しなかったというのだ。


小林さんが書いた記事。モーターマガジン。


エンスーの妻が必ず遭遇するのはクルマの故障。「私が遭った酷いこと」というお題では、満里子さんは新婚旅行時のエピソードをお話されている。

小林 思い出深いのは新婚旅行(笑)。MG・TCで出かけたんですけど、蒲郡まで行ったら、何かヘンな音がし始めて、そしたら名古屋のお友達でやはりTCを持っている方が、一緒にバラしましょうって言ってくださったんです。
渡辺 いきなりバラしましょう、ですか。
小林 ええ、バラしてみたら、大事な箇所を止めるピンが、本来4つのところ3つしかなかったらしいんです。丸一日、主人は修理にかかりっきりでした。新婚旅行中に(笑)。
渡辺 その間、何してたんですか。
小林 私ですか、お友達の家でボケっとしてました。
渡辺 怒ったりしない。
小林 ええ。
渡辺 クルマのトラブルが起きたら、どうするのが一番ですか、これまでの経験から。
小林 何もわからないですからね。ぼっとしているのが一番いいんじゃないでしょうか。ぼっと見ている以外には別にありません。その方が、直している方も気が楽だと思いますし。

 満里子さんが自動車免許を取得したのは1961年のこと。普通免許を取得すれば自動2輪もついていた時代である。

渡辺 運転は、小林彰太郎さんからじきじきに習ったんですか。
小林 じきじきって、もう叱られてばかりいましたね。アクセルをムラに踏んだとか……。
一同 ホォーッ。
小林 とにかく主人を乗せて、私が運転するという機会をなるべく減らすことです。
一同 ハァーッ。
小林 私が運転する時は向こうも乗りたがらないですし、乗るときは、主人の具合が悪くて、私の運転をどうこう言う元気のない時です。
一同 (爆笑)。

渡辺 クルマが好きな小林さんと、そうでない小林さんと2人いたら、どっちにします?
小林 そうですねぇ(と暫く考え込む)、うーん、クルマが好きじゃない、というのはやっぱり考えられないですね。クルマのおかげで、たくさんいいこともありましたしね。

 満里子さんは、もともと細かいことにはこだわらない性格だったそうだが、彰太郎さんと一緒に暮らすようになってますますおおらかになったそうだ。古いクルマと暮らす生活の過程でそうならざるを得なかったらしい。

小林 困ったことと同じくらい、楽しいことがたくさんある。とは言えるんじゃないのかと思います。エンスーの妻である秘訣が、のんびり過ごすことだとすれば、その結果は、思い出もたくさんできるということでしょうか。

エンスーの妻は二度、伴侶にエンスーを選び、その操縦も上手いということになりましょうか。