HONDA SPORTS 360


モーターサイクルの分野で世界を征服した本田技研工業が、満々たる自信をもって発表したミニアチュア・スポーツ。まるでグランプリ・レーサーにオープン2 シーター・ボディを架装したような恐るべき車である。360cc で33 HP以上で 120km/h 以上、500cc で40HP以上で 130km/h 以上も出せるという世界的にも例をみない物凄い超小型のスーパー・スポーツである。発売は来春といわれ、価格は大いに注目されているが、360 で40 万円台、500 で50 万円台とみられている。輸出にも相当期待をもっているようだ。(CARグラフィック1962年12月号)

 今回の東京モーターショーにて、1962年秋に開催された第9回全日本自動車ショーにてホンダ初の4輪車として展示された軽自動車規格(排気量360cc以下)のスポーツ360(2XAS250型)が展示された。
 スポーツ360の現存車は量産が見送られたために残念ながら無く、断片的に残された図面を下に第9回全日本自動車ショー出展車を忠実に社内プロジェクトとして復刻したものである。

 これこそが日本のメーカーに欠けている自動車文化の創造であり継承ではないか。復刻に携わった関係者に敬意を表したい。



 狭いコーナーが馬鹿に混んでいると思ったら,今年のショーで最も注目されているといっても過言ではないホンダの展示場。もちろん360 と500 のスポーツだ。
 「やっぱりイカスなあ。いよいよ四輪に乗りかえるかなあ……」
といっているのは,ホンダのスポーツだけを見に乗用車会場へきたらしい革ジャンパーの少年。きっとホンダのオートバイでも愛用しているのだろう。何を聞いても賛美一点ばりだ。
 ターンテーブルの上の車とは別に床に置いてある500のスポーツは入れかわり立ちかわりシートに坐り,ハンドルやレバーをいじる者が後を絶たない。説明する係員もテンテコ舞いだ。いくつかの質問の最後は必ず値段のこと。そのたびに
 「来春発売なので値段の方はまだ決っていません。ええ,大体のところも私たちじゃ何も判らないんで……」と低姿勢で応対している。いかにも四輪初登場らしいフレッシュさにも好感をもてた。
 エンジンとシャシーの展示に見入っている銀座で洋品店を開いているという人はこういう。
 「小さくて,しかも性能がいい。日本じゃあ,まず一番願っていたタイプですね。是非欲しいんで,一昨日の招待日に見にきて,また今日もきたんです。買いたいのは500,360 じゃ・すぐ白バイにやられちゃうし,テイルが短かすぎて異様ですね。座席は大変いいです。今は何に乗っているかって?MG のTD です。値段は知らないけどMG 売れば,まあたいした出費にもならないじゃないですかね」
 ともかく,このコーナーにはスピードに憑かれた若さがムンムンとしている。(CARグラフィック1962年12月号)

スポーツ360の生産が見送られた最大の理由は、上記の記事に記された「360じゃ・すぐ白バイにやられちゃうし」という文句に集約されると思われる。当時の軽自動車の法定最高速度は40km/hであり、カタログ最高速度の120km/hの性能は発揮できなかったのだ。おまけに高回転型のエンジンだったので40km/hを維持して走るのにはムリがあったのだった。