The Legend of Tazio Nuvolari Part 7  III Circuito delle Tre Province


1930 Alfa Romeo 6C 1750 GS

 踏切で宙を舞った後、Nuvolariたちのクルマはアクセルのジョイントが壊れてしまった。
「なんとかならないのか?」
 Nuvolariはレースを諦めたくなかった。
「やってみよう」
 そう言いながら、Compagnoniは、レーシングつなぎの革ベルトを外し、ボンネットの下に通して、壊れたアクセルのジョイント部品に結びつけると、助手席に戻った。
「アクセルを踏む代わりに、こうして革ベルトを引っ張れば良いのさ。どうだい?」
「流石は、名メカニックだ」
 Nuvolariは、馬面に笑いを浮かべて、クルマをスタートさせた。これからゴールまで、運転は2人がかりとなった。Nuvolariが、ブレーキとクラッチとギアを担当し、Compagnoniがアクセル代用の革ベルトを操作するのだ。
 こんな方法でレースを続けたことは、自動車レース史上、後にも先にもないことだった。無茶と言うよりも呆れかえる話だ。
「ぶっ飛ばすぞ!」
 Nuvolariは、ぐんぐんスピードを上げた。Compagnoniは、左手でベルトを握り、右手をフレームの下に入れて、車体を抱える格好となった。こうしないと、座席から振り落とされる恐れがある。
 路面状況は次第に悪くなっていた。狭い路面に、石がゴロゴロしている。それが車体の下に突き出た Compagnoniの拳に容赦なく当たる。Compagnoniは、慌てて手を引っ込めた。右手の甲が切れて、そこから真っ赤な血が吹き出ている。
「畜生!」
 呪いの言葉を吐き散らしながら Compagnoniはハンカチを取り出し、傷口に巻きつけた。
「おい、大丈夫か?」
 Nuvolariは、相棒を一瞥しただけで、スピードを落とすことは無かった。