1960, HINO Commerce Type PB10


日野コンマース
水冷直列4気筒 OHV 836cc 28ps/4600rpm FF 最高速度82㎞/h

1960年デビュー、日本初の前輪駆動商用車としてもっと誇りをもってよいと思うのだが、日野オートプラザの展示は素っ気なかった。
それもそのはず、僅か2年、2,344台で生産を打ち切りに追い込まれた失敗作だったからである。フェラーリじゃあるまいし、たった2,344台では開発費用を回収できるわけもなく、日野が受けた損害は大きなものがあったはずだ。




基本的には日野ルノー4CVのエンジンとギアボックスをそっくり前へもってきてFFとしたものだ。重量は10人乗りのミニバス仕様で1135㎏に増加したため、エンジンを748cc、21馬力から836cc、28馬力に拡大強化してある。ミッションは2速以上がシンクロメッシュの4速であった。
足回りの設計は進歩的なものであった。ジョイントを片側2個にしてダブルウィッシュボーンとトーションバーの独立、リアも横置きリーフをロワーウィッシュボーンのピボットを縦置きトーションバーにした全輪独立懸架で、さらに当時の国産乗用車でも珍しいモノコックボディのため、前輪駆動との組み合わせで床面地上高が435〜440㎜という低床式であったのも特徴だった。

技術的には極めて進歩的な設計で、スペース効率にも優れていたコンマースであったが、総生産台数2,344台で僅か2年で製造中止となる。
理由は極端なパワー不足*1と積載時の前輪の荷重不足による動力性能の難、更には前輪駆動車の生命線とも言える駆動ジョイントに、消耗に弱い簡易式で、完全等速でもないL型ジョイントを使っていたこと。当時、日本には等速ジョイントを造る技術がなかったのである。ジョイントが摩耗するにしたがって異音や振動が大きくなるというFF車としては未熟な弱点を抱えていたのだ。


FF商用車の先輩、シトロエンH同様にエンジンカバーが真ん中に鎮座する運転席。夏は恐ろしく暑かったであろう。


フロント・ドアが後ヒンジなのに注意。


成功したFF商用車の先輩たち

1948, Le Citroën Type H



1959, Renault Estafette

*1:型式認定時の審査試験結果によると、2人乗りバン(車両総重量1035kg)で0-400m加速に31.9秒かかっている。後にコンテッサ900用のエンジン893ccで、最高出力35ps/5000rpmを搭載したが人気の凋落には焼け石に水であった