イタリア人とバカンス

 これは Giovanni Agneli が Pininfarina に作らせた特注の FIAT Multipla のビーチ・カー。洒落てるよねぇ。

今回はイタリアのバカンスの話だ。



 8月になると会社が一斉に休みになって、全員がどこかに出かけるというのは自動車が普及した70年以降になってからだそうだ。8月の1周目からバカンスが始まって1か月ぐらいを過ごす。夏だからたいていは海で過ごすことが多いようだ。大切なのは、同じ場所に最低1週間はいる、ということで、日本のように毎日、場所を変えて観光して回る、なんてことは絶対にないこと。バカンスの目的は、自由気ままにのんびり過ごして、疲れることはしない。これは、イタリアの会社では月曜日に会議をしないのが常識なのと同じく、バカンスの常識だそうだ。
 それで、同じ場所で、ひたすらボーッとしている。
 ビーチ・カーは夏場のヨット・ハーバーで足として、また買い物や散歩用に使われるもので、海辺の別荘に置いてあるのが普通だ。



 Giovanni Agneli は山の別荘に“FIAT 130”のステーションワゴンをもっている。130はフィアットが70年代に作った最高級車で2900ccのV6エンジンを搭載しているが、このステーションワゴンは排気量を3200㏄にアップし、特別に作らせたものだ。
ルーフ・キャリアに乗っけている籐のカゴが洒落てるね。

 イタリアでは、偉くなればなるほど、会社でいえば、ポジションが上がるほどに、バカンスをたくさん取ります。日頃は目茶苦茶に働くけれども、そのかわり、バカンスもふんだんに取るわけです。バカンスを取らない人は、出世を諦めた人だし、バカンスを取らずにあくせく働いて偉くなった人はいません。なぜって、そんな人は尊敬に値しないからです。
 Giovanni Agneli は年がら年中、真っ黒に日焼けしているし、この国の経団連の人も、ずらりと並ぶと全員が小麦色で、それは見事です。歴代首相を浮かべてみても、青白いひ弱な印象の人はいません。
 日本の政財界の人がよく海外で、我々は休みも取らずにここまでやって来た、それで国をここまで発展させた、みたいな言い方をしますが、そんなことは、少なくともイタリアでは尊敬されることではない。休みもせずに働いていいけれども、そんなことは口にすべきではないし、ヨーロッパには日焼けして来て欲しいと僕なんかは思います。
(内田盾男著“La Mia Macchina!”1995 より)

 日本もやっと高速道路の料金が休日のみ格安となって、自動車での大旅行が出来るようになりつつある。有給休暇でさえ消化できない日本企業の悲惨な現状を考えると、1か月もの夏休みは、あと100年以上もかかるような夢だろうが、もし行ったことがないなら、是非北海道への自動車旅行をお勧めする。
 大渋滞のない北海道なら、大自然を眺めながら楽しいドライブが出来るだろうし、あなたのクルマも本来の性能を引き出して超法規的な速度で走らせることができるだろう。