1956 O.S.C.A. 750S


 1938年、3兄弟が経営するマセラティに大きな経営上の変化が訪れる。マセラティ兄弟によって運営されていた会社に外部からの資本が創業以来初めて参入したのだった。とくに経営危機があったのではない。4Cや6CMがレースで好成績を収め、グランプリの名門である Alfa Romeoと肩を並べるほどのコンペティターとなるほどにマセラティの経営は順調だったからだ。
 資本参入したのは Adolfo Orsi。製鉄業から工作機械、農耕機械、電気機器、果ては都市交通業まで手広く広げた企業グループのオーナーであり、マセラティの乗っ取りを企てたのだった。
 初め Orsiが狙ったのはスパークプラグ部門(Candeli Maserati)だったが、それが自動車と切り離せないことを知り、レースの覇者であるマセラティの名声がビジネスに利用できると考えた彼は、ボローニャマセラティ買収を思いついたのだった。残された3兄弟(元々は6人兄弟だった)の Ernesto Maserati(末っ子で技術マネージャー)と Ettore(5男)と Bindo(次男、元イソッタ・フラスキーニのテストドライバー)はこの申し入れを真剣に考えた末、遂に1938年の初めにそれを受け入れ、この誇り高い兄弟の工場、Officine Alfieri Maseratiを Orsiの手に引渡したのである。Adolfoは息子 Omer Orsiをその社長の座に据え、マセラティ3兄弟は特別待遇の社員になった。
 本社は創業地ボローニャからモデナへ移され、マセラティの新しい歴史が始まった。元々グランプリで優勝しても、大抵のチームがシャンパンの海の中でその勝利を祝っているというのに、マセラティ兄弟だけが汚れたブルーのオーバーオールに身を包んでじっと喜こびを噛みしめるように、次のレースのための車の整備に没頭する姿がよくみられたほど、兄弟はレースに情熱を注いでいた。金策の心配のなくなった3兄弟は歓喜して新しいグランプリ・マシーンの設計に取掛り、ポンテヴェッキオ工場の明かりが消えることはなかったのだった。新しく設計された3リッターのモノポストは、強豪のドイツ陣を打ち負かすことはなかったが、北米に送られたマシンは見事に 1939と 40の2年連続、苛酷なことで知られるインディアナポリスのメモリアル・デイ500マイル・レースに見事連続優勝している。
 第2次大戦中もマセラティの名声は兄弟とともにあり、戦争終結とともに見事に返り咲いた。フォーミュラの変更とともに1.5リッターのマセラティはレースで注目され、戦争直後無敵を誇ったアルファ・ロメオの出場しなかったレースにはほとんどすべて勝利を収めた。
しかし常に独立自尊心を失わない3兄弟は遂に 1948年重要な決心をした。Orsiと関係を改善する代りに、彼等は彼等自身の仕事をすることにしたのである。彼等には永年の経験に裏付けされた頭脳があったし、Orsiとの契約でマセラティの名を使うわけには行かなかった。そこで彼等はボローニャに帰って手頃な小さな工場をもち、それにO.S.C.A.( Officine Specializzate Costruzioni Automobiliの略)という名を冠した。兄弟がもっていたのは旋盤などの最小限の工具とそれに彼等の頭脳と技術、そして彼等の名声……それがすべてであった。それからのO.S.C.A.はマセラティ時代のような派手な栄光は無かったが、無数の国内レースにおびただしい勝利をものにするとともに、1950年の Mille Migliaには Fagioli / Diotallevi組の Osca MT4 1100がクラス優勝しているし、1954年にはLloyd / Moss組の Osca MT4 1450が大排気量車を敵に回して Sebring 12 Hoursで優勝している。これは耐久レース史上最大の番狂わせのひとつと言われている。

 耐久レースのスポーツ750クラスとスポーツ-850クラスを対象とし 1956年にデビューした、O.S.C.A. 750は(Type S187)、直列4気筒DOHC 750cc 70馬力のエンジンを搭載、車重430kgのボディを最高速度180km/hまで引っ張った。Lotus 11や Lotus 17、 Fiat-Abarth、 DB HBR4や Moretti 750s、そして無数の Stanguelliniの良きライバルとして、欧州はもちろんのこと北米のレースでも活躍した。
 de Tomasoと Colin Davisの乗る O.S.C.A. Sport 750 TNは 1958年のル・マンで総合11位で750ccクラス優勝し、 Index of Performanceを獲得している。


O.S.C.A. の指定オイルが Shellであったことに注意。