いろいろ問題のあるオスプレイ

the Yokota Air Base Japanese–American Friendship Festival 2014.から。

軍事ジャーナリストの清谷信一氏が東洋経済オンラインにて、オスプレイ導入にあたっての問題点を上げている。

オスプレイは日本のメディアでも何度もニュースに登場しており、知名度の高い兵器といえるだろう。しかし、どのような運用をするのか、説明されていないままだ。いくら防衛省関係者に聞いても明確な運用構想の説明はない。そもそも、運用構想は無いようだ。
オスプレイは固定翼機の高速度と長い航続距離、ヘリコプターの垂直離着陸機能を併せ持った「いいとこどり」の機体と紹介されることが多い。だが固定翼機ほど高速ではなく、ヘリコプターほどの垂直離着陸能力を持っていない中途半端な機体であるとも言える。

オスプレイの欠点とは?
オスプレイの欠点は、着陸のための降下は徐々に高度を下げる必要があり非常に緩慢であることだ。このためヘリと比べて着陸に3倍ほどの時間がかかる。さらにローターブレードが短いこともあり、ヘリモードでの空中機動性は低い。敵の対空砲火に対しては回避性能が悪く、脆弱である。
しかも構造上ヘリのように胴体側面のスタブウイングや側面のドアに機銃やミサイル、ロケット弾などの火器が装備できないので、丸腰である。このため着陸に備えての火力による制圧や牽制ができない。またオスプレイの飛行速度がヘリに比べてかなり速いために、攻撃ヘリなどは随伴できない。
空自の固定翼のジェット戦闘機は現場空域に滞空できる時間は極めて短く、精密な目標の探知と攻撃ができない。このためヘリボーン作戦を支援するための、充分な対地攻撃ができない。このことはアフガンやイラクなどの戦訓でも明らかである。そもそも中国と紛争状態になった場合、数的に劣勢な空自の戦闘機は、航空優勢を維持するだけでも精一杯で、対地攻撃を行う余裕があるとは思えない。

つまりオスプレイで敵の制圧地域に強襲着陸作戦を行うならば極めて大きな損害を出す可能性が強い。退役した米陸軍の航空隊の高官は自分たちがオスプレイを採用しなかった最大の理由はこれであると述べている。
日本の多くのメディアは「オスプレイは危険だ」と情緒的な記事で読者を煽ることが多いが、上記のようなオスプレイの飛行特性を解説・分析した記事を目にすることはない。具体的な問題点を示すことなく情緒で語るのは、ジャーナリズムではない。
オスプレイにも多くの利点がある。重要な点は、新しい機体だけにその利点、欠点を把握し、運用構想を練るには時間がかかるということだ。だが防衛省オスプレイの研究に本格的に予算を付け、着手したのは本年の4月からであり、僅か数カ月の間にそのような時間があったとは思えない。


オスプレイは1機120億円
もうひとつの問題はコストだ。陸自の内部資料によると1機あたりの調達予定コストは120億円と見積もられている。
オスプレイペイロード(積載重量)は最大4.5トン、24名の兵員が搭乗可能だ。対して陸自の現行の大型ヘリ、CH-47JA(ライセンス品)はペイロード約11トン、人員55名を輸送できる。しかも調達単価は約60億円だ。米軍のCH-47は最新型のF型の場合、さらに安く、約39億円である。つまり現行機種であればペイロードオスプレイの約2倍もありながら、コストは半分(米国製ならば3分の1〜4分の1)で済む計算になる。

CH-47JAの航続距離はオスプレイよりかなり短いが、これは米軍のように空中給油機能を付加すれば解決する。空自はC-130H輸送機を16機保有しており、うち1機に空中給油機能が付加されている(来年度にもう1機分の改修予算を要求)。空中給油機能を搭載したC-130Hを増やせば、かなりのヘリに給油が可能である。C-130Hへの空中給油能力付加にかかるコストは1機あたり14億円である。
確かにオスプレイの方が巡航速度は時速446〜476キロと巡航速度が時速257キロのCH-47JAよりも圧倒的に速いが、速度を言うのであれば、固定翼のC-130Hの方が時速550キロと、もっと速い。これに第一空挺団を搭載(1機あたり最大64名の搭乗が可能)し、落下傘降下させればより早く目標地点に降下させることができる。
オスプレイはキャビンが狭く、車輛などの大型装備は搭載できないため、落下傘降下による空挺作戦に比べてメリットがさほどあるわけではない。対してCH-47JAは、軽装甲機動車などの車輌をキャビンに搭載できるため、投入部隊はより高い火力と生存性が期待できる。
前述のように、オスプレイで敵の支配地域に強襲作戦をかける場合、かなりの損害を覚悟しなければならない。オスプレイでやりたいことは何か、それは既存の装備で本当にできないことなのか。この点を防衛省が真摯に検討したようには思えない。

どのように財源を確保するのか
そもそも陸自のヘリ調達予算は毎年300億〜350億円程度に過ぎない。対してオスプレイ17機を中期防で予定通りに調達するならば、来年度から4年間平均して510億円の予算が、毎年必要である。ちなみに陸自の来年度概算用要求は約1.78兆円である。そのうち人件費・糧食費が1.2兆円。残りのは予算は6000億円弱に過ぎない。筆者は内局にも陸幕長にも質問したが、どのように財源を確保するかについて、明確な回答は無かった。
オスプレイの整備費用はヘリより高く、数倍はかかるといいう話もある。今後、そのような高額な維持費を払い続けることができるのだろうか。ほかにも費用は掛かる。防衛省には、オスプレイの整備施設を国内に誘致し、ここで米軍および陸自オスプレイを整備する構想がある。だが、整備施設の設置場所としては韓国も候補に挙がっている。整備施設を誘致するためには、さらに多くのオスプレイ調達を米国側から要求される可能性もある。果たして陸自の予算がこうした支出に耐えられるだろうか。
オスプレイ自衛隊が導入し、本土に配備すれば、オスプレイは「危険」な航空機ではないとアピールでき、沖縄に「危険」なオスプレイを押し付けるわけではないというメッセージになり、沖縄などの反オスプレイ感情をなだめることができるだろう。これは筆者も否定しない。恐らく政府にもそのような腹づもりがあり、それがオスプレイの「政治採用」につながったのだろう。だが、そのような政治効果のためだけに導入するのであれば、法外に高い支出になる。
ただし、オスプレイをどうしても購入したいのであれば、有効な代案がある。オスプレイのうち、海兵隊型のMV-22ではなく、空軍の特殊部隊用のCV-22を3〜4機、陸自の特殊部隊である特殊作戦軍を南西諸島に投入するために調達すればいい。現在、特殊部隊を投入する専門航空部隊が自衛隊に存在しない。これは先進国としては極めて異例である。日本からODAを受けているヨルダン軍特殊部隊の航空旅団は中型ヘリのブラックホークだけでも21機以上保有している(公式には8機と発表されている)。ヨルダン軍はそれ以外にも多数のヘリ、固定翼機を運用している。自衛隊に特殊作戦用航空部隊がないのは、時代遅れとしかいいようがない。
ヘリボーン作戦や揚陸作戦を行う場合、事前に特殊部隊を送り込み偵察や監視、場合によっては、対空火器など撹乱、味方の精密誘導兵器の誘導を行うのが定石である。このような潜入任務であればCV-22は極めて有用だろう。
事前に特殊部隊などの偵察も行わず、対地攻撃能力の無いMV-22による強襲を行えば、全滅する可能性は極めて高い。かつての帝国陸海軍の「空の神兵」(落下傘部隊)ならばともかく、現在の自衛隊がそれだけ大きな人的資源の損失に耐えられるのだろうか。

http://toyokeizai.net/articles/-/47070