ALPINE A110 1300S (1968)


水冷直列4気筒 OHV 1296cc 120ps/7200rpm

A110は1600のやつに1度街中をオーナーの好意で借りて乗ったことがある。デビルマフラーを備えた個体は、まさに爆音と言う言葉が相応しい轟音を撒き散らして走った。
運転席は、まさにコクピットと呼ぶべきタイトなもので、戦闘機を想像させる。街中だったので、レーンチェンジのみだけしか、そのクイックな操縦性を味わうことはできなかったが、かなりの戦闘力を持っているであろうことが想像できた。



G71年2月号から小林彰太郎氏のインプレッションを紹介しよう。

 アルピーヌの操縦性を納得するまで試すには、閉鎖されたサーキットへ持ち込むほかはない。アルピーヌのコーナリング・スピードの限界はそれほど高いのである。言い忘れたが、テスト車はミシュランXASの165X15という大径タイアをはいている。タウン・スピードでも、ステアリングのレスポンスはきわめて鋭く、腕で回すというよりも手首だけでの動きで、敏しょうに車線を変える。ロックからロックまでは3.2回転もする割に、スピードを問わず軽くない(特にフロント・エンドの軽いリア・エンジン車ということを考慮に入れると一層)。コーナリングは、意外なことに予想したより強い(絶対的には軽いが)アンダーステアで始まる。ロールはほとんどゼロに等しく、ねらったとおりの正確な軌跡を描いて、安定した姿勢でコーナリングする。コーナーの途中でパワーをオン・オフしても、姿勢にはほとんど影響ない。コーナリング・スピードの限界は、ドライバーの肝っ玉のサイズによってきまるかのごとく、適当なギアに入れてあげれば際限なくスピードが上がる。そして先ず鳴き出すのはフロントの方が先で、強い逆キャンバーのついたリアは、フルパワーをかけても容易なことでは滑りそうにない。正直言って、公道上でそれ以上のコーナリング・スピードを出す勇気は筆者にないので、限界的な挙動は推測するほかない。おそらく、XASの特性から言って、フロントがブレークした直後にはリアもほとんど同時に滑り出し、コントロールをきわめてむずかしいものにするだろう。しかしこのアルピーヌは純レーシングカーではなく、クープ・ド・ザルプやツール・ド・フランスのようなラリーを主にねらったGTだということを考えれば、この操縦性は充分以上と思われる。
(中略)
485万円という価格はポルシェ914/6より高価だが、性能はそれに勝るとも劣らず、ノイズ・レベルはたしかに低く、スタイルははるかにエレガントである。わずか1日のはかない邂逅であったが、五体満足?でディーラーに返すときには、動物的愛情さえ、この小さな悪魔に感じ始めていた。