James Young Ltd Coachbuilders Part 2





Rolls-Royce に関する小林彰太郎さんによるインプレッションを、CG誌63年3月号の記事から引用してみよう。

 現代のロールス ロイスを旧式な車だと思ったら大間違いで、古典的なボディの内には自動車技術の最先端を行く機構が秘められている。エンジンはV8 6230cc、4 速遊星ギヤとトルクコンバーターを組合わせた自動変速機がすべてのモデルについて標準装備であり、ステアリングもブレーキもサーヴォが付いている。外観上、ヘッドライトが4 灯式になったのが63 年型の大きな特徴である。これはスタイリングの時流に従ったというよりも、ロールスの高性能と現代の交通事情がそれを必要とするに至ったためと解するべきだろう。基本的なモデルは従来通りファンタムV とシルヴァークラウドⅢの2 種。言うまでもなく、ファンタムV は王侯貴族用のフォーマルリムジンで、ホイールベースは最も長く144 インチ。ボディはすべて名のあるコーチビルダーの特製で、パークウォード社とジェイムズヤング社が架装している。
 シルヴァークラウドにはホイールベースに123 と127 インチの2 種あり、標準ボディはロールス自家製のスティーサルーンだが、別にセミカスタムでジェイムズヤング製ディヴィジョン付サルーンと、マリナー製ドロップヘッドクーぺがある。ボディの基本型は62 年型と大差ないが、ライトが4灯になった他、ラジエターとボンネットが幾分低くなって前方視界が改善されたという。V8 エンジンの出力は例によって発表されないが、圧縮比を8 から9 に上げ、ツインSU キャブレターを2 インチ径に変えた結果、出力は7%増加したと言われる。性能的にもかなり優秀で、シルヴァークラウドは190Km/h 以上、ファンタムV リムジンでさえ優に160Km/h を超える。英国工場価格(税金を含まず)は、ファンタムV が約730 万円、シルヴァークラウド標準サルーンでも約456 万円もする。

 ロールスは今年から遂にデュアルランプを採用したが、写真の車は62 年型シルヴァー・クラウトⅡの標準サルーン。これはロールス自社製の豪華な6 人乗サルーンボディを載せた、ロールスとしては最も高くないモデルながら、入札価格は1350万円である。ホイールベース123 インチ(3.12m)、全長5.38m、重量2 トンを超える超大型車だが、V8 6230 ㏄のパワフルなエンジンと4 速フルオートマティックトランスミッションの組合せにより、歩くよりおそいペースから190Km/h を超えるマキシマムまで、音もなくスムーズに加速できる。ローレンス・ポメロイの名文句によると100マイルで走行中、いちばん大きいノイズは時計が時を刻む音だそうだが、この車は時計さえ聞こえなかった。

 厚いウォルナットのダッシュには黒地に白文字の古典的な美しい計器が並んでいる。高い座席からはるかかなたに立つマスコットを見ながら運転するのは実に豪華な気分だ。4 速遊星ギヤとトルクコンバーターによる自動変速機は3 つのスピードレインジを持つ。ステアリングもブレーキもサーヴォ付で極く軽い。

入札価格というのは、当時の日本では輸入車は日本車メーカー保護のために輸入自由化されてはいなかったため、欲しい人は入札して買うこととなっていたのだ。今の価格にしたら1億3千万円というところだろうか。