Fiat Mephistopheles meets Fiat 500 TwinAir


 わずか900ccのツインエアーに並んでいる怪物は21706ccという大排気量をもつフィアットのレーサー。如何にヴィンテージ期の自動車エンジンが非効率的だったのかを物語っている。

 この巨大なレーサーは“Mephistopheles”と呼ばれ、その名の意は、ドイツの民話で伝えられる悪魔のことだ。

FIAT S.B.4 (1908)
ステアリングを握るのはナッザーロ。

 元々は、英国レース界を席巻していた Napier との一騎打ちの挑戦を受けた Felice Nazzaro がフィアットに注文した“S.B.4”が原型となっている。搭載されたエンジンは、1907年のACFグランプリ優勝車のものを10mmボア・アップし、18,146cc、175ps/1200rpmのパワーを誇った。 しかし、最高速度は190㎞/hで、ライバルのネイピアの200㎞/hと比べれば明らかに非力であった。フィアットには分が悪かったのだが、その年の6月8日に Brooklands で行われた43.8㎞のチャレンジ・レースではネイピアはクランクシャフトを折ってリタイア、フィアットが勝利した。
 


Fiat Mephistopheles(1923)
 その後、第1次大戦が勃発、“S.B.4”は惰眠をむさぼっていたが、1921年に英国自動車レース界の先駆者ドライバーである John Daff の所有するところとなる。彼は特製のピストンを組み込み長距離レースに出場したが、後の2本のピストンが吹き飛んでしまう。“S.B.4”の生涯もここまでかと思われたのだが、英国アマチュア・ドライバーの Sir Earnest Eldridge が買い取り、大幅な改造が施されることとなった。彼は“S.B.4”のホイールベースを延長し、英国政府所有のフィアット製航空エンジン“A12Bis”(直列6気筒 21706cc 320ps/1800rpm)を搭載した。大容量のラジエターが新設され、木製のホイールはワイヤーに換えられ、足回りにはフリクション・ダンパーが追加され、ボディもボートテールのモダーンなものが架装された。前輪ブレーキが無いこととチェーン・ドライブはそのままであったが……。
 メフィストフェレスは大改造の成果により、1923年7月12日に最高速度の世界記録234.98㎞/hを達成するという偉業を成した。